数理統計基礎研究と応用統計研究の発展及びその融合
研究部門設立の背景と目的
「統計科学」とは得られたデータからその背後にある母集団の特徴を見出すために、確率の概念を用いて最適となる理論や統計的手法を与える研究分野です。近年、「データサイエンス」が注目を集めていますが、これらの理論の中心は「統計科学(統計理論)」であり、脚光を浴びています。
このような状況のもと、本学においても、AI及びデータサイエンスの研究において、我が国だけでなく世界をリードする研究体制を構築することが重要です。しかしながら、AI及びデータサイエンスの研究といっても非常に広範囲であり、東京理科大学が世界に誇れるこの分野の研究を考えると、本学には昔から伝統的に「統計学」を専門とする教員が多く、しかもすべてのキャンパスに在籍しており、特に、統計的推測の論理を数学的に整理したものである「数理統計学」を専門とする研究者が数多く集まっているのは国内では本学だけであるといっても過言ではありません。また、かつて、社会人を対象とした医薬統計プログラムが存在したように医療統計学にも強いという特色があります。そこでキャンパス間や学部学科間を超えて、これらの分野の研究者が集結し、活発に交流することによって、「東京理科大ならでは」の研究を行い、研究拠点を形成することを目標とします。また、この部門の設置によって、研究テーマは異なりますが、その背後なる共通理論に関心を持つ研究者が集結し、本質的な理論や手法について研究水準の向上を目指し、データサイエンス時代の新理論の創造や新分野への開拓などを行うことも目的とします。
研究グループ
本研究部門は、大きく3 つのグループで構成され、以下のような分野について研究を行っていきます。
数理統計基礎グループ(リーダー:橋口博樹教授(理学部第一部応用数学科))
本グループについては、神楽坂・葛飾・野田キャンパスの各教員と客員教授、客員准教授で構成され、研究活動を行っています。特に、「多次元欠測データ解析」、「高次元データ解析」、「ランダム行列論」、「次元縮尺法」、「一般化線形モデルなどの統計モデリングとモデル尺度」、「ノンパラメトリック法」、「分割表統計解析」、「モデル構築の研究」を中心に、応用統計研究グループへの融合を視野に入れて研究を行います。数理統計基礎グループで扱う手法は理論的背景が明快であってホワイトボックス的であるのに対して、現実問題で取り上げられる問題の解法はヒューリスティック、深層学習などブラックボックス的な側面があります。データサイエンスの理論を構築する上では、後者のブラックボックス的な解法をいかに前者の方法論等で明確にしていくかが問われると思います。
応用統計研究グループ(リーダー:寒水孝司教授(工学部情報工学科))
本グループについては、神楽坂・葛飾・野田キャンパスの各教員と学外研究者で構成され、研究活動を行っています。特に、「医療統計」、「数理ファイナンス」、「スポーツ統計」、「統計的機械学習」、「組合せ最適化・数理最適化」、「教育工学」を中心に、データ解析チームとの連携を視野に入れて研究を行います。国際的にも評価の高い優れた研究実績をあげているため、グループ内だけでなく、グループ間においても交流することによって新たな研究が期待できます。また、客員教授、客員准教授の先生方とも連携を取り、各キャンパスおよび各大学の学生とも交流しながら共同研究を行っていきます。
データ解析チーム(リーダー:田畑耕治教授(創域理工学部情報計算科学科))
多種多様で複雑なデータが日々生成・蓄積される現代社会において、より高精度で柔軟な解析手法が求められるという課題意識から発足しました。特に、企業や研究機関との共同研究を推進する「データサイエンスセンター」を通じた外部連携をより実効性のあるものにするため、プロジェクトに応じて適切な専門性を持つ研究者がチームを編成し、共同で研究に取り組む体制としています。
従来の「数理統計基礎グループ」が統計理論の深化を担い、「応用統計研究グループ」が医療・金融・教育・スポーツなど具体的な分野への展開に焦点を当てているのに対し、データ解析チームは理論と応用の橋渡しとして、実際の複雑なデータに対して柔軟かつ解釈可能な統計的アプローチを開発・適用することを主眼としています。
具体的には、ビッグデータ環境における統計モデリング、機械学習・深層学習の統計的解釈、因果推論、ベイズ推定、可視化技術といった手法を駆使し、分野横断的な実課題に挑みます。また、各キャンパス・学部に分散する専門家が連携することにより、プロジェクトごとに最適な研究分担体制を構築し、多様なニーズに応える柔軟性を実現します。
データ解析チームは、東京理科大学が誇る数理統計の強みを基盤とし、実社会の複雑な課題に対して科学的な意思決定を支える統計解析のあり方を探究する、新たな研究のハブを目指します。
