複数個体間の脳や個体内のいわゆるもう一つの脳との相互作用の機序解明を目指して
部門設立の背景と目的
神経科学(脳科学)は、21 世紀に飛躍的な発展が期待されている生命科学分野であります。それに加え、脳の健康を保持することにより高齢化社会における生活の質の向上が見込めること、さらには脳で行われる情報処理の仕組みを応用することで革新的な技術の創出が見込まれることから、社会・産業界からも熱い視線が送られている分野でもあります。近年、あらゆるものがインターネットにつながるようになり(IoT:Internet of Things)、スマートウォッチなどのウエアラブルデバイスによりヒトも知らず知らずのうちにインターネットにつながるようになってきました(IoB:Internet of Bodies)。次はヒトの心がインターネットにつながる時代(IoM:Internet of Minds)になることは容易に想像できます。まさに、脳インターネット時代の到来です。本部門は、脳と神経情報・システムに関する学内の多次元・多軸の専門技術・情報を集中し、学外の関連研究者とも連携して多分野融合型の研究開発基盤を構築することで、複数個体の脳活動の協調や集団形成プロセスにおいてどのように相互作用するかを明らかにする脳インターネット時代を見据えた、理科大発の革新的学問分野、つなげる脳科学、『パラレル脳』の創出を目指します。
研究組織とメンバー
マウスやヒトを対象とした脳研究手法によって集団を形成する複数の個体の脳を同期(パラレル)計測し、脳研究の知見に根差した生体情報のセンシングや再現する技術を本学ならではの学際分野から提案します。本部門は、オンライン空間での集団形成や共生の機序解明・支援、さらに、共通したセンシング技術をマウス実験とヒト実験とで利用することにより、社会性動物に共通した複数の脳の間でおこる相互作用を数理モデルにより記述し理論的な背景を構築することを目指す3つの班から構成され、これらの班間の相乗効果で創発的な成果を生み出すことを追求します。
動物実験班(マウス・ヒト)
認知に着目した脳の健康と疾患(悲観的認知の特徴があるうつ病、認知や記憶機能が低下する老人性認知症、社会的認知とコミュニケーションに障害がみられる自閉症など)について、分子・神経回路からモデル動物までの多次元研究を遂行し、関連メカニズムを解明し、改善薬や診断薬のシーズ創出をめざします。
センシング班
発達障害等における視線行動や生理指標に着目した性格特性について、脳機能障害の解析や評価の多次元研究を遂行し、関連する計測技術やアシスト装置の創出をめざします。
数理モデル班
ヒトの視知覚に着目した脳内情報処理について、脳機能イメージング、認知心理実験、脳型アルゴリズムなどの多次元研究結果を基に、脳情報処理システムのモデル化や理論構築をめざします。
部門メンバーは、理工学部(竹村 裕、牛島健夫、山本隆彦、萩原明、朝倉巧、山本征孝)、薬学部(斎藤顕宜、山田大輔)、生命研(中村岳史、鯉沼真吾)、工学部(阪田 治、橋本卓弥)、先進工学部(瀬木(西田)恵里、鈴木敢三)、教養教育研究院(市川寛子)の15 名に、学外2 名:産業技術総合研究所(長谷川良平)、University of Exeter Medical School(小黒-安藤麻美)を加えた計17 名の学際的な神経科学関連分野の研究者から構成されています。主に各メンバーが個別に関係する施設や所有する設備を活用した共同や連携による研究を展開しています。本部門だからこそ可能な各専門領域の垣根を超えた共同研究(現在進行中)を下記に示します。詳細は部門のホームページを参照ください。
社会性行動を制御する脳機能の解明(瀬木、小黒―安藤[エクスター大学])
~自閉症を伴うヒト染色体欠失疾患モデルでの社会性行動と脳発達変化の解明~
種を超えた音声コミュニケーションの検討(市川、斎藤、山田、朝倉、竹村)
~マウスにおける超音波発声とヒトにおける超音波聴取の効果との関連~
ヒトの歩行動作と性格特性との関連に関する研究(市川、竹村)
~ヒトの内部状態に由来する歩行の特徴を抽出・評価~
さらなる飛躍を目指して
本部門は、理科大ならではの脳神経研究を発展させるため、共同研究の推進と個別の独創的な研究を統合させて、理科大発の革新的学問分野、“つなげる脳科学”、『パラレル脳』の構築をめざして今後も活動していきます。理工系の学際的な総合力とシナジー効果を追究し、医学部や病院などの臨床機関とも連携することで、学内の脳科学、神経科学の研究基盤をさらに充実・発展させると共に、次世代の人材育成のための教育も実践していきます。