日常の健康的でQOLの高い社会生活を支援するスマートな健康長寿社会の創成
現代社会において人が抱えてしまう些細なストレスは、様々な疾病への罹患リスクを増大させます。人々が日常の健康を獲得し、仮に疾病によって生体機能の低下または喪失が生じた場合であっても、当たり前のようにQOL(Qualityof Life)の高い社会生活を営むことができる社会の創成が求められています。本部門はこのような社会の実現を支えるスマートヘルスケアシステムを提唱し、臨床工学技士や医学系研究者の助言を得ながらその要素技術開発と融合研究を行っています。
本部門の研究体制と構成メンバー
本部門では、大きく4 つのグループに分けられ、その研究内容の一部を紹介します。
センシンググループ
・運動による健康増進/ 長寿メカニズムの解明
運動生理学、行動生理学、材料学、代謝学などを起点とし、日常の身体活動による健康増進・長寿のメカニズムの解明のため、動物モデルを用いた身体活動量の非接触的手法による定量と、心身の健康に最適な身体活動量の探索を行っています。
・ 身体機能・メンタルヘルスに及ぼす骨格筋/ 脂肪組織由来の情報伝達ナノ物質の解析
ヒトの漠然とした心身機能の定量的可視化を行います。特に、柳田、梅澤、小林は脳- 臓器連関が切り拓く運動による健康増進/ 長寿メカニズムについて既に共同研究を行っており、身体活動量の増減にともなう脳・末梢臓器連関のメカニズムに切り込む研究を進めています。また、骨格筋や脂肪細胞から産生・放出されるナノスケールの構造体の物理化学・生物学的性質が環境刺激に対していかに応答するかを分析し、脳―臓器関連の可視化を目指しています。
デバイス動作・制御グループ
・体内埋込み型電子機器に対する経皮エネルギー伝送
生体内部に埋め込まれた医療電子機器に対する非侵襲なエネルギー供給や情報伝送システムの研究を行い、デバイスの動作に不可欠な駆動用エネルギーを供給する際の感染症リスクを根本から低減し、バッテリーレス化による小型化・軽量化を実現します(図1)。
・生体等価電磁ファントムの開発
生体内外間のワイヤレス電力伝送や情報伝送などを行う際、周辺電磁環境や生体の存在がこれらに及ぼす影響を調査することは、機器の安定的運用に不可欠です。動物実験を行うことなく実施するためには、生体の電磁的特性を模擬した材料の利用が有用です。本研究では、各種模擬生体の開発を行っています。
集積回路・信号処理グループ
伝送グループ、情報通信グループがハードウェア実装を行う過程で必要不可欠な、高周波・高速信号処理回路、低電圧・小電力回路およびその小型化に関する研究を行っています。特に、微小な生体電位の測定に特化した重要な高性能な増幅器(低雑音・高入力インピーダンス)、高分解能・低消費電力なアナログ・ディジタル変換回路(ADC)・ディジタル・アナログ変換回路(DAC)の開発を行っています。さらに、センシングのためのデバイスを広く普及させるため低価格でかつばらつきに強いロバストな回路を実現するため、素子のばらつきについて解析を行い、ばらつきに強い回路について研究を行っています。
情報通信グループ
・生体近傍に設置される小型アンテナ
生体情報を外部へ通信するための、小型かつ高利得で、生体の近傍で使用してもその存在による影響を受けにくいアンテナの研究開発を行っています。
・低消費電力、高品質でセキュアな無線通信
センシンググループにより測定された生体情報などを医療施設に無線通信を用いて伝送することを想定し、高速化・大容量化・高品質/低遅延、多数同時接続と、伝送品質を低下させることなく低消費電力を実現する通信方式の研究を行っています。さらに、不正アクセスや悪意のある攻撃に対する情報通信の防御を行うこととでセキュアで安心・安全な電波利用の促進に関する研究を行っています。