アンビエントデバイス研究部門
部門長 | 理学部第一部応用物理学科 准教授 木下 健太郎 |
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研究内容 | アンビエントデバイスの創製及び抽出されたビッグデータの収集・分析技術の確立 |
目的 | 環境に溶け込み、環境にやさしい、スタンドアロン型の革新的有機或いは有機・無期ハイブリッド半導体デバイスによる高感度センサ付きRFIDタグを創製し、それを用いた新たな自動データ収集・分析技術の確立を目指します |
メンバー | メンバーリストはこちらから |
アンビエントデバイスの創製及び抽出されたビッグデータの収集・分析技術の確立
部門設立の背景
2013年米国で、数兆個を超えるすべてのモノにセンサノードを貼り付け、情報収集し、情報科学を利用することで豊かで安全な社会を実現する「トリリオンセンサ構想」が提案された。現在日本では、物中の超効率化に向けて、2025年までにコンビニの全商品に電子タグを取り付ける「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」(経済産業省)が推進されている。このような貼付型・バラマキ型センサノードは、環境に溶け込むという意味で「アンビエントデバイス」と呼ばれ、ポストスマホとして大きな市場形成が期待されている。アンビエントデバイスは、軽量・柔軟・安価である必要があるため、基板も含めた全物質を有機材料や有機・無機ハイブリッド材料で構成する必要がある。本部門では、アンビエントデバイスの大量普及時代を見据え、部門設置期間中にアンビエントデバイスに関わる材料物性制御・デバイス創製・取得データ解析の研究を実施し、社会実装を目指す。
研究開発の内容
アンビエントデバイスの応用例として、我々は次世代物流センサ付きradio frequency identifier(RFID)タグを想定している。近年急増する大型商業施設、eコマースの拡大、そしてグローバル化による物流サービスの拡大に対して、従来の物流システムの破綻が顕在化し始めているため、次世代に向けた物流の仕組み開発を早急に進める必要がある。輸送形態に関するニーズも多岐に渡り、食品、薬品、精密機器などの品質と価値を損なわない輸送を実現する。革新的有機半導体デバイスによるセンサ付きRFIDタグを創製し、それを用いた新たな自動データ収集技術が確立されれば、高効率・安全・安心な物流サービスが実現され、社会へのインパクトは極めて大きい。
「低環境負荷かつ低コストの高性能センサノード」を実現するため、構成デバイスの材料物性及び構造を精緻に制御する。センサノードに搭載されるデバイスは目的に応じて異なり、例えば将来の物流に用いるセンサノードには、加速度センサ・温度センサ・RF送受信アンテナ・トランジスタ・メモリ・電源、が必要となる。各デバイスを有機物或いは有機・無機ハイブリッド材料で構築することで、低環境負荷のセンサノードを実現する。また、技術の普及には製造コストを無視することは出来ない。従来のセンサノードの1/100の価格(1円/センサノード)を達成するため、低コストの作製プロセスと材料の低コスト化を追求する。
本部門から生まれた新技術
部門設置により研究者が集うことで、画期的な新技術も生まれている。現在、ウェアラブルデバイスやモバイル端末など、エッジ領域でAI 演算を行うエッジAI 技術の開発が急務となっている。エッジAI では、低消費電力かつ高速なデータ処理特性が要求され、特に、生活環境において生成される時系列データをリアルタイムで処理する場合には、これらの特性が不可欠となる。本部門では、イオン液体 (IL) が電気信号に対して分極する際の時間スケールが、生体信号を始めとする現実環境で生成される信号の時間スケールと同程度であることに着目し、リアルタイムAI 学習に適用可能なAI デバイスを発案した。ILはカチオンとアニオンのみで構成される液体塩であり、不揮発性、難燃性など、デバイス応用の観点から優れた特徴を有する。IL の分極に伴う電流は微弱であり、低消費電力での駆動が可能であると同時に、カチオン及びアニオンの選択と組み合わせにより、性質をデザインすることが可能であることから、入力信号の時間スケールに応じた学習の最適化が可能になると期待される。
トリリオン構想における課題の一つがセンサの廃棄問題である。センサの主な構成材料であるプラスチックは海洋汚染の要因になるため、プラスチックの回収およびアップサイクルが重要である。無価値なプラスチックから付加価値の高い材料へのアップサイクル技術の構築が必要であり、本部門では新たなアップサイクル法の確立を目指している。現状、種々のプラスチックから多層カーボンナノチューブへの高効率変換法を開発することができた。部門のデバイス研究者・材料研究者と協業し、ばらまき型センサデバイス⇔再生ナノチューブの循環技術の確立を目指す。
外部連携
突出した素子動作速度を示す単結晶有機半導体超薄膜の作製技術を保有する東京大学 竹谷グループと共同で、さらなるデバイス特性向上を目指し計算・実験の両面から物性探索を行う。東京大学柏キャンパスにある竹谷教授保有の世界的に類を見ない高度な装置が整った最先端設備環境で研究が遂行可能である。具体的には、本テーマに必須である単結晶有機単分子膜形成装置をはじめとし、各種有機無機薄膜形成装置(湿式・乾式両プロセス)、微細加工装置(フォトリングラフィ、レーザーリソングラフィ、湿式プロセス)、大型スクリーン印刷装置、各種電子顕微鏡、各種分光器、各種電気・機械・光物性評価装置を使用し、有機半導体分子合成からデバイス作製・評価、大規模印刷プロセスに至るまで、一気持通貫えデバイスを製造することができる。
今後の展開
新たに設置された研究部門です。デバイス創製から社会実装までの険しい道のりを踏破するには、他部門との連携によるシナジーが不可欠だと考えています
部門長からのメッセージ
東京理科大学における有機或いは有機・無機ハイブリッドデバイスの研究拠点として、物性実験、物性理論、半導体デバイス、有機エレクトロニクス、エネルギー変換等、各分野で活躍している専門家が、学内外を問わず有機的に連携し、物質研究・デバイス応用・社会実装まで、一連の研究開発に取り組みます。
図1 本研究部門を構成する学内外研究者の相互関係と研究推進のイメージ
研究部門
- カーボンバリュー研究拠点
- 先端都市防災研究部門
- ナノカーボン研究部門
- 界面科学研究部門
- 実践的有機合成を基盤としたケミカルバイオロジー研究部門
- 先進複合材料・構造CAE研究部門
- 核酸創薬研究部門
- 合成生物学研究部門
- 再生可能エネルギー技術研究部門
- アンビエントデバイス研究部門
- 生物環境イノベーション研究部門
- 統計科学研究部門
- 技術経営戦略・金融工学社会実装研究部門
- 数理解析連携研究部門
- ナノ量子情報研究部門
- 先端エネルギー変換研究部門
- 再生医療を加速する超細胞・DDS開発研究部門
- パラレル脳センシング技術研究部門
- デジタルトランスフォーメーション研究部門
- 先端的代数学融合研究部門
- データサイエンス医療研究部門
- スマートヘルスケアシステム研究部門
研究センター
共同利用・共同研究拠点
共創プロジェクト